前編

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(婚約破棄は、お姉様の一方的な判断だもの。ユランはきっと、まだお姉様に未練があるんだわ)  ユランは子供の頃から頻繁に姉の元を訪ねて来ていたから、妹の私も彼にたくさん遊んでもらった。本を読んでもらったり、勉強を教えてもらったり、時には一緒にピクニックに出かけたり。  でも、ユランは私のことには一切興味なし。  私が必死にユランに話しかけたところで、彼からの返事は必要最低限の言葉だけ。私に向かって笑顔を見せてくれることですら、ほとんどなかった。  ユランにとって大切なのはいつも姉のゼルマで、私はただのおまけ。  だから私のことを「好いてもいない相手」と言われても、「ああやっぱりそうだよね」としか思えないのだ。 (別に私だって、ユランのことなんて……)  壁の向こうに聞こえないように静かに鼻をすすると、私はもう一度ユランの声に耳をそばだてる。 「鏡よ、聞こえているだろうか」  鏡よ鏡よ、と何度もしつこい!  もしかしてユランは、あの有名な昔話に出て来る『魔法の鏡』を手に入れたとでも言うのだろうか。
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