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「好きではない相手と結婚するのは、心身ともに良くありません。二人で共に過ごすうちにどうしようもない無力感や悲しみに捉われ、そのうち体も壊すでしょう」
「体を壊す?」
「ええ、そうです。長く一緒にいればいるほど、精神的な苦痛は健康にも影響を及ぼしますよ。いっそのこと、この結婚は白紙にするのはいかがでしょうか? あなたの妻になる予定のエレノア・ヘンゼル嬢を王都に帰すのです。正式な結婚前なので、今ならまだ間に合います」
(ほらほら! 大っ嫌いな私との結婚はなかったことにして、私を早く王都に帰してよ!)
しばしの沈黙の後、ユランはポツリと呟いた。
「エレノアを王都に帰すなど……それはできない」
「なんで!!」
……しまった、大きな声出ちゃった!
私は咄嗟に咳払いをして、思わず出てしまった地声を誤魔化した。
「鏡よ、驚きすぎだ。できないものはできないんだ……が、他の手を考えてみよう」
ユランがそう言った後、壁の向こうでカーテンが閉まるような音がした。魔法の鏡の前にカーテンでもかけて、誰にも見つからないように隠しているのだろうか。
壁の穴から差し込む灯りが消えたのを見計らって、私は壁にかかっている鏡の背面を、そっと指で押してみた。やっぱりこの穴は、隣のユランの部屋まで貫通している。
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