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「壁に穴が空いているなんて、一体どんな貧乏ボロ屋敷なのよ……」
前領主であるアンゼルム・ジークリッドは、亡くなる前にほぼ全ての財産を使い切って、すっからかんになったらしい。
ユランが爵位を継いでまだ一年。
たった一年では財政を立て直すまでに至るはずもなく、ボロ屋敷の修繕など、きっと後回し。まだまだ先になるだろう。
初めからアンゼルムではなくユランがここを継いでいれば、きっとこんなことにはならなかっただろうに。
再び静寂に包まれた屋敷のクローゼットの中で、私は一息ついてその場に座り込んだ。
「ユランったら。他の手って、なんのことだろう……」
ユランは、私を王都に帰すことはできないと言った。
私との結婚を白紙にしたところで、我がヘンゼル家はユランに対して文句の一つも言うことはない。そもそもユランを裏切って傷付けたのは、我がヘンゼル家の方なのだから。
しかし、クルーガ伯爵家はどうだろう。
姉に続いて私もユランと結婚しなかったとなれば、さすがに黙ってはいないのではないだろうか。
「そっか。だから私を王都に帰すわけにはいかないのか」
あれこれ考えるのが嫌になり、私は立ち上がってクローゼットを出る。
慣れないベッドに再び潜り込むと、早く眠ってしまいたいとぎゅっと目を閉じた。
ユランの気持ちは私に向いていないのに、明日は私たちの結婚式だ。
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