第二章 置き去り生活

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「三十日近くも何をしていたんだ…… 俺は」 島の探索より、目の前の入り江での食料確保を優先したことをエーギルは恥じた。 ルドン島に来た当初は慣れない食事から空腹で動き回るのを避けていたのだが、食事に慣れた今となっては常時腹八分目、島の探索に乗り出せる程に体力は回復している。  ジャングルの中を彷徨うエーギル。錆びた舶刀(カットラス)で獣道を切り開いて道無き道を行く。もう何年モノの舶刀(カットラス)かもわからない上に海鼠の解体を主としているためにいつへし折れるかもわからない。なるべく硬い枝を切らずに済むような道を選んで進み行く。 この時ばかりは、サトウキビを切るためだけに作られ耐久性に優れた鉈を恋しく思うのであった。 ジャングル探検の成果は上々。緑色の果実が成った低木を見つけたエーギルは涙を流し歓喜した。その低木はライムの木、海賊に限らず船乗り全ての最大の敵である壊血病に対抗するための黄金の果実こそがライムである。エーギルも海賊になりたての頃は船上にて壊血病で生死の境を彷徨った経験がありライムの有り難みはよく知っていた。 壊血病。ビタミンCの欠乏によって起こる体の疾患。皮膚の乾燥、脱力、精神不安、毛穴からの出血、粘膜部からの出血を引き起こし死に至る。海の上にて植物性の栄養であるビタミンCの摂取が困難になることから、専ら海の病と言う扱いになっている。 エーギルはそのままライムを一齧りし、その苦みと爽やかな香りを口の中で噛み締めた。皮ごと果実を一気に食べきり、種をペッペッと吐き出した。 「さて、これを植えて増やせば後十年は戦えるな」 そんな冗談を言いながらエーギルはジャングルの更に奥へと進み行く。途中、大木を見つけ、幹に張り付いた宝石のように輝くカナブンに気がついた瞬間、短剣(ガリ)でその背中を一突きし、そのまま口に運び入れ、バリボリバリボリと噛み砕き一気に飲み込んだ。
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