プロローグ ろくでなしのクズヤローの死

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プロローグ ろくでなしのクズヤローの死

 全身を自動小銃で撃たれ、兎が飛ぶかのように荒れ狂う冷たい海の底へと沈む男がいた。 男の名は黒崎延広(くろさき のぶひろ)、彼はほんの三ヶ月前まで普通のサラリーマンであった。  黒崎延広は地方の大学を卒業した後、東京の小さな商社へと就職した。 営業職となり、靴をすり減らす程の外回りをし細々と仕事を取り糊口を凌ぐ毎日を送っていた。 楽しみは月に数回のキャバクラ、一点数百円の馬券・車券・舟券を気分によって切り替えて大穴狙い、一円パチンコで一秒でも長く打つこと。 キャバクラに関しては社交辞令とは言え、こんな金の無い自分を肯定してくれる女性との一時を過ごすため。 ギャンブルに関しては勝ち負けどうのこうのと言うよりは、勝つ目前に得られる射幸心を得るために行っているのかもしれない。大穴狙いが当たりそうになった時、リーチが来た時の高揚感を味わうためにギャンブルに身を投じていると言った方がいいかもしれない。  こんな刹那の快楽に身を浸すような生活をしていて、矮小なる幸せに妥協をしているようでは、どれだけ頑張っても、金が稼げる筈がない。 判をついたように続く同じようなしょうもない毎日。そして気がつけば歳は三十五歳のアラフォー。延広はこんな自分を「ろくでなしのクズヤロー」と自虐するようになっていた。  こんな先の知れた人生に絶望感を覚えていたある日のこと、闇金の男が延広の元へと訪ねてきた。 闇金の男は延広に向かって一枚の紙を見せつけた。 「黒崎延広さんよぉ? アンタ、借金は返さねぇと駄目だぜ?」 「あ、あの? どういうことでしょうか? サッパリ身に覚えがないんですけど」 「お前になくても、こっちにあるの? 借用書にもキッチリ書いてあるじゃないか」 闇金の男が借用書の一点を指差した。債務者の欄にはしっかりと 黒崎延広 と、署名がされていた。肉筆ではあるが見覚えのない字。だが、そんなものを書いた記憶がない。延広は困惑するばかりであった。
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