第一章 異世界の海

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 こんな話をしているうちに夜はすっかり更けていた。エーギルは酔い醒ましのために夜のナンシィーの街に散歩に繰り出すことにした。  満天の星空の下、エーギルはナンシィーの大通りを歩いていると知らぬ間に港へと辿りついていた。 夜の港から見る海は漆黒の闇そのもの、見ているだけで飲み込まれそうになり不安を覚える。潮風にあたり酔いも醒めたところで、エーギルは踵を返した。今日は幹部会もあったことだし、ウーテウス船長も暫くは海に出ずに休暇を取るだろう。用心棒(ケツモチ)を担当している娼館で休んでいても問題はない。 エーギルは娼館に向かおうと一歩を踏み出した瞬間、穏やかな波の音に割り込む音があった。 パァン! フリントロック銃の音である。こんな夜中に穏やかではない。ナンシィーの海賊はナンシィーの治安を守る自警団の役割もある。エーギルは銃声のした方へと向かった。 銃声が聞こえたのは港の桟橋の方からだった。桟橋の突き当りには漆黒のコートを纏った男が一人佇んでいた。その右手には煙が立ち昇るフリントロック銃が握られている。 エーギルは腰のホルダーからフリントロック銃を出し、コートの男に向かって構えた。 「おい! ここで何をしている!」 コートの男は振り向いた。その男はエーギルのよく知った顔、ウーテウス船長その人である。 「ウーテウス…… 船長……?」 「おう、エーギルじゃねぇか? こんな夜中にどうしたんだ? ん? 船長に向かって銃構えるたぁどんな了見だ? さっさとしまえ?」 「は、はい」 エーギルはフリントロック銃をホルスターに収めた。そして、立ち尽くすウーテウス船長の前に倒れる人影を発見した。 その人影は、この夜中でもわかるような真白いコートを纏っていた。それを見たエーギルの全身に震えを起こしてしまった。エーギルは慌ててその男の元へと駆け寄り、顔を確認した。
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