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「ジョージ船長……」
倒れている男はジョージ・ジョンソン船長。このナンシィー海賊共和国の首席海賊団である自由海賊団の船長で、海賊の中の海賊、大海賊にして大親分とされる男。
レィンディアー海の海賊の中で首領と言える存在。エーギルからすれば雲の上の男である。
そんな男が何故にこんな夜中に桟橋の上で倒れているのか。エーギルはウーテウス船長に尋ねた。
「これは一体……?」
ウーテウス船長は黙って俯いた。その顔は悲哀に満ちたもので、エーギルはこの六年間一緒にいて初めて見る顔であった。
「こいつが、いけないんだ…… 上納金を今より上げるって言うからよぉ…… 腹立ってよぉ、殺っちまったよ。大海賊を……」
ようは船長が本家からの上納金の件で揉めて殺しただけのしょうもない話である。しかし、相手は大海賊。このレィンディアー海の海賊全てを敵に回すほどの大事件である。
現役の海賊船船長が、他船、それも大海賊を殺したとなれば、エヌオー海賊団の存亡にも関わる。
下らないことで人を殺すのも海賊らしいと言えば海賊らしい。
相手が海賊ではないカタギであればよくあること。気にもしないところである。
しかし、このナンシィー内の法律である「海賊の掟」に従うならば大罪だ。
「ウーテウス船長、海賊の掟に逆らったのか? 改正されて、仲間殺しも上に登る手段として許されるようになったのか?」
エーギルはウーテウス船長に尋ねた。ウーテウス船長は俯き、首を振った。
「馬鹿野郎。海賊殺しは大罪だ。自由海賊団の奴ら、全力で俺のエーギル海賊団を潰しに来るぞ」
「因果応報だ」
「まだ俺は船長としてやることがあるんだけどな」
ウーテウス船長は懐から信号砲を出し、天に向けて銃爪を引いた。
漆黒の闇を一条の光が引き裂く。
「せ、船長?」
ウーテウス船長は、まだ硝煙が立ち昇るフリントロック銃をエーギルに向かってぽいと投げた。エーギルはそれを反射的に手に取ってしまう。
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