第一章 異世界の海

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「ジョージ船長……」 倒れている男はジョージ・ジョンソン船長。このナンシィー海賊共和国の首席海賊団である自由(リバタリア)海賊団の船長で、海賊の中の海賊、大海賊にして大親分とされる男。 レィンディアー海の海賊の中で首領(トップ)と言える存在。エーギルからすれば雲の上の男である。  そんな男が何故にこんな夜中に桟橋の上で倒れているのか。エーギルはウーテウス船長に尋ねた。 「これは一体……?」 ウーテウス船長は黙って俯いた。その顔は悲哀に満ちたもので、エーギルはこの六年間一緒にいて初めて見る顔であった。 「こいつが、いけないんだ…… 上納金(アガリ)を今より上げるって言うからよぉ…… 腹立ってよぉ、殺っちまったよ。大海賊を……」 ようは船長が本家(ウエ)からの上納金(アガリ)の件で揉めて殺しただけのしょうもない話である。しかし、相手は大海賊。このレィンディアー海の海賊全てを敵に回すほどの大事件である。 現役の海賊船船長が、他船、それも大海賊を殺したとなれば、エヌオー海賊団の存亡にも関わる。 下らないことで人を殺すのも海賊らしいと言えば海賊らしい。 相手が海賊ではないカタギであればよくあること。気にもしないところである。 しかし、このナンシィー内の法律である「海賊の掟」に従うならば大罪だ。 「ウーテウス船長、海賊の掟に逆らったのか? 改正されて、仲間殺しも上に登る手段として許されるようになったのか?」 エーギルはウーテウス船長に尋ねた。ウーテウス船長は俯き、首を振った。 「馬鹿野郎。海賊(なかま)殺しは大罪だ。自由(リバタリア)海賊団の奴ら、全力で俺のエーギル海賊団を潰しに来るぞ」 「因果応報だ」 「まだ俺は船長としてやることがあるんだけどな」  ウーテウス船長は懐から信号砲(サインほう)を出し、天に向けて銃爪を引いた。 漆黒の闇を一条の光が引き裂く。 「せ、船長?」 ウーテウス船長は、まだ硝煙が立ち昇るフリントロック銃をエーギルに向かってぽいと投げた。エーギルはそれを反射的に手に取ってしまう。
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