第一章 異世界の海

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 エーギルは自由(リバタリア)海賊団預かりとなり、ナンシィーのアジトにて拘束されることになった。地下牢にて鎖で繋がれ、苛烈なる拷問を受ける毎日。 夜は九尾の猫と呼ばれる鞭での百叩き、昼はジベットに入れられての野ざらし、野ざらしになっている間は大海賊を殺した罪で海賊達から罵りを受け続けた。罵る海賊達の中には、かつての自分の仲間もいた。 尊敬していた先輩や、弟のように可愛がっていたキャビンボーイからも石を投げられ罵り受けてしまう。  エーギルは、どれだけ苛烈なる拷問を受けても罪を一切認めなかった。 「ジョージ船長を殺したのはウーテウス船長だ!」と、言い続けるが誰にも信じて貰えなかった。 ジョージ船長は内外問わずに尊敬されている人格者(海賊にとって)であったために、それを殺したエーギルに対しての恨みは深い。  本来ならば仇討ちで殺されてもおかしくないのだが、ナンシィーにおける現在の海賊の掟では「仲間(海賊)殺しは『置き去り刑』に処す」とあるために殺すことも出来ない。なぜなら、海賊達にとって海賊の掟は絶対だからである。  身も心もボロボロになったエーギルは自由(リバタリア)海賊団の旗艦船であるキルケー号に乗せられ、船倉にて拘束された。激しく海に揺られること数日間、辿り着いたのはとある無人島。ジョージ船長の後を継ぎ、自由(リバタリア)海賊団の船長代行となった男、ビクトール・オサリバンが船倉に現れ最後の挨拶を行う。 「よぉ? ジョージ船長を殺した大罪人の『エーギルくん?』今日はお前にお別れを言いに来た」 エーギルは連日の拷問と粗食によって力ない状態であったが、必死に潔白を訴え続けた。 「違う…… 俺じゃない…… 殺ったのは…… ウーテウス船長だ……」 「まだ言うか? ま、例えそれが本当だとしても、お前のような戦闘員の戯言を信じる奴はいない。ウーテウス船長本人もお前がジョージ船長を撃ち殺すのを見てるって言うんだ。諦めるんだな? 海賊の界隈って言うのはな、船長の言うことは絶対なんだ。例えカラスが黒かろうと、船長が白と言えば白になる。お前の言うことは信用されないんだよ」 「くっ……」 エーギルは奥歯を噛み締め悔しがった。自分も海賊であったためにそれは十分にわかっているからこその悔しみである。 「ま、フツーの海賊なら頭の中でカラスは白いものって思い込むんだけどな。俺としてはカラスに灰を被せて白く塗る子分の方が好きだがな。ああ、白いカラスを探してレィンディアー海中を船で探しに行くような大馬鹿は嫌いだ。ああ、よくわからねぇ例え話をしちまったな。忘れろ」
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