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エーギルは襤褸布同然の下着姿にされ、ボートに乗せられた。
どこともしれない島の入り江に辿り着いたところで、エーギルはポイと投げ捨てられた。一緒にボートに乗っていたビクトール船長代行は小さな木箱を砂浜に向かって投げた。
「いいか? あの木箱の中には、呼笛とフリントロック銃と短剣と数日分の食事が入っている。あれでどうするかはお前の自由だ。ま、このルドン島は置き去りの聖地で誰も来やしない、呼笛はウチの海賊団で海に漂流する羽目になった時のために皆に持たせてるもんだ、記念品としてとっておくんだな。静かな時に吹くとピーピー音が響いて面白いからなぁ…… 娯楽品だと思うんだな。寂しくしぶとく一人で生き続けて餓死するか、これからの孤独に耐えきれないなら、渡したフリントロック銃で自殺するかの二者択一だ。よく考えるんだな?」
置き去り刑。罪を犯した者を無人島に追放する刑罰。船乗りの間でも行われていたが、主に行っていたのは「海賊の掟」に従っていた海賊である。海賊の掟に逆らった者が受けることもあれば、クーデターを起こされた船長が受けることもあった。
実質的な死刑と言えた。脱出は自力で泳ぐか船を作ること、もしくは訪れた船に救助してもらうことである。
ルドン島。ナンシィーの南東に位置するアーレックスの南部に存在する諸島のうちの一つで離れ大島である。隣の島まで離れている上に沖は鮫の群生地のために泳いで逃げることは不可能。船を作ろうにも硬い木が多く、大量生産の粗悪品の舶刀では筏を作ることは不可能である。
巨大な島で猛獣も多く、海賊が多く出入りするアーレックスも近いことから「追放」がしやすいこともあり、置き去りの聖地として海賊達の間では有名な島とされている。
数年前に「置き去りの聖地」として有名になりすぎたこともあり、海賊達はこぞって置き去りに使っていたため、置き去りに遭った者だけで海賊団を結成し、彼らが置き去りに処した海賊団にお礼参りに来る事件が起こることがあった。
それ以降、ルドン島を置き去りに使用するのは「三年に一回、一人だけ」と海賊の掟で定められている。
「帰るぞ」
「へい」
ビクトール船長代行を乗せたボートがくるりと方向を変えた。船頭がオールを回すように漕ぎ出しにかかる。その先の進路にはキルケー号が悠然と海の上を漂っていた。すると、ビクトール船長代行は最後に礼を述べた。
「お前が理由はどうあれ、ジョージ船長を殺してくれたおかげで、俺が船長になれた。不幸中の何とやらってやつだ。運良く生きてナンシィーに戻ってこられたら精一杯の饗しをしてやるよ。お前は俺にとって恩人だからな!」
出来るわけがないだろ…… エーギルは砂浜に大の字に寝転び、これからの人生に絶望するのであった……
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