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1 我が家の守り神?
千葉県のとある町。都会ではないが田舎とも言い切れないような、微妙な地域に私、森沙耶の家がある。ご先祖様がこの近辺の名士だったらしく、びっくりするほど大きな土地に見合った長く続く塀に立派な門構え、屋根はいぶし瓦で落ち着いた雰囲気を醸し出している古民家が私の家だ。
古民家と言えば聞こえはいいが、言ってしまえば築ウン百年の古い家な訳だ。そして、私はこの無駄に広い家に一人暮らし。十九歳のフリーターである私が、なぜこんな古い家に一人暮らしと疑問を持たれるだろう。
もともとは祖父母が住んでいたのだが、昨年、祖父と祖母が相次いで亡くなり、長男である私の父が跡を継ぐために一家で引っ越してきたのだが、急に長期の海外転勤を言い渡され、「後はよろしく。この家なら女の子の一人暮らしでも安心だから」という意味のわからない一言を残して、母とともに海外に引っ越してしまった。
こうして私は、十九歳の若さでこの大きな屋敷の当主となったのだ。そして、この当主になったことで私のこれまでの価値観は覆され、毎日危機に瀕しているのだ……。
◇◆◇◆
「駅からも徒歩圏内だし、スーパーも近くて便利だし、何よりおじいちゃんやおばあちゃんとの思い出が詰まったこの家で、棚からぼた餅的な一人暮らしができるとは。海外出張様様だね」
入浴剤を入れて、乳白色になったお湯を手で掬いながら一人ゴチる。お風呂は決して広くはないが、ちゃんと全自動で浴槽にお湯を溜めてくれる機能はついている。
「俺たちが海外に行ったら、沙耶がこの家の当主だな」
「えっ、なに? この家、野球チームとか持ってんの?」
「お前、野球のピッチャーをイメージしているだろ。投手じゃなくて、この屋敷の主って意味だよ」
両親が旅立つときにした会話が頭の中によみがえる。
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