4 吉兆ここに極まれり

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 慌ててバッグから小さな手鏡を取り出そうとして、うっかり落としてしまった。この人混みで床に落とした手鏡を拾うのはかなり困難。ただ、割れた鏡の破片とかで誰か怪我するかもしれないから、なんとしても拾わないと。そう思って、無理にでもかがもうとしたときに声がかけられた。 「お姉さん、これ落としたよ」  透き通るような優しい綺麗な声。差し出された手の上には落としてしまった手鏡が載せられていた。 「あ、ありがとうございます」  手鏡を受け取るときに見えた指は細く長く、まるでモデルさんのようだ、そしてその綺麗な指の持ち主さんのお顔は芸能人としか思えないほどの美人さんだった。 「あっ、綺麗」  思わず口を突いて漏れ出てしまった感想。どうやら彼女の耳にも届いてしまったようだ。 「綺麗? あたしが? ふふふ、ありがとう。お姉さんも十分に美人さんよ」  超絶美人なお隣さんはそう言って見せる笑顔なんか、そこいらのアイドルはひれ伏すのではないと思うくらい綺麗だった。 「ねえ、名前なんて言うの? あたしはコクア。日本人じゃないから、聞きなれない名前だよね。お姉さんもMoon Catのファンなの?」  超絶美人さんが、Moon Catの団扇(うちわ)を軽く仰ぎながら訊いてきた。   「あっ、沙耶って言います。大ファンです。バイト先の友だちから勧められて初めて聴いたときなんか、気がついたら涙が流れていたりして。その団扇いいですね。グッズにあるんですか?」 「これはね、手作り。いいでしょ」
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