4 吉兆ここに極まれり

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 超絶美人が私に話しかけてくれている。しかも外人さんだった。なるほど、日本人のレベルを遥かに凌駕する綺麗さだもんな。大も珠も破格の美形だけれど、人間にだってこれだけの美人がいるんだ、とちょっと誇らしくなっていた。そして、その超絶美人も私と同じMoon Catのファン。それだけで、さらに誇らしく感じてきた。 「沙耶ちゃんか、かわいい名前だね。ああ、それとその手鏡、少し割れているから気をつけてね」  そう言われて改めて手鏡を覗き込むと、確かにひび割れが何本も見えた。 「あっ、割れてる」  お気に入りの手鏡だったけれど、ついに割れてしまった。 「大切なものだったのかな。残念だったね。その分、一緒にライブで盛り上がろうよ」  超絶美人が私にキラッキラの笑顔を向けてきた。ああ、そうか、わかった。大の嫌な予感とは、この超絶美人の微笑みで私がキュン死することだったんだ。男女問わず、超絶美形が大好物の森沙耶、幸せ絶頂のまま逝ってきます。  そんなアホなことを考えていたらフロアーの照明が落ち、ステージにスポットライトが差した。そして、ドラムがリズムを刻み、ディレイを効かせたギターが心にスーッと入ってくるイントロを紡ぎだす。正確なベースが音に厚みをもたせて、奏詞の歌声に心を鷲掴みにされた。  ライブハウス中の視覚と聴覚がステージに集中する。  なぜ充実しているときって、時間があっという間に過ぎるのだろう。気がついたときには、ステージにMoon Catのメンバーの姿はなく、その余韻を熱として残しているだけだった。 「最高だったね、沙耶ちゃん」
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