5 お茶汲み姫の憂鬱

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 ちゅちゅ? 何じゃそりゃ。っていうか誰か勝手に玄関から入ってきた。真っ赤な着物に、真っ赤な髪と髭、瞳も赤く、見るからに暑苦しい。コイツはもしや…… 「炎帝様」  ああ、やっぱり。暑さの元凶が目の前にいる。炎帝に我が家のエアコンは瞬殺され、部屋はますます熱気に包まれてきた。やばい暑いし、お腹痛の限界も近くなってきたぞ。 「ちゅちゅ〜、どこに行ったかと思って心配で心配で。でも無事で良かった。ちゅちゅ〜、会えて良かったぁ」 「いやだから、私の名前は筒姫です。ちゅちゅじゃありません。いつになったら覚えてくださるのですか」 「ねえ、大、これって」 「うん、滑舌の問題だね。しかも炎帝は元々が中国の出身だから”つ”の発音は難しいんだよね」  なるほどね。名前覚えて貰えないってのは、筒姫様の被害妄想か。 「ちゅちゃ〜、戻ってきてはもらえないだろうか。お前がいないと暑さの制御が効かんで困っておる」 「でも、私は人間からも認知もされず、司る夏自体が不必要とされている身。もはや、神として存在する理由もないのです」  ヤバい、私の反応がそのまま筒姫のダメージになっている。このまま、筒姫が戻らなくて猛暑が続くなんて事になったら、私の責任じゃないか。何とかしないと。 「あの、夏って暑くて、湿気多くて汗がベタついて気持ち悪かったりと嫌な事いっぱいあるけれど、でも海行ったり、カブトムシやクワガタ採ったり、みんなで花火や夏祭りに行ったり、夏にしかできないことが一杯あるじゃない。それに、私達の食べているお米だって夏がないとちゃんと育たないんだよ。私たち日本人は夏があるから生きていられるんだよ。だから、だから、私たちの大切な夏を守ってください。
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