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その晩、私は仕事が中々落ち着かず、深い時間まで残業になってしまった。
会社を出る頃には頭に余白がなくなっていて、水平より上に昇った短針を苛立ちながら睨みつけた。 このまま家に帰ってもすぐに眠れそうになく、数回立ち寄ったことのあるバーへそのまま足を運んでみた。
元々は部下の知り合いが始めた店で、開店当時はそこそこ盛況ぶりをみせていたのだが、すぐに飽きられてしまったのか、次第に客は減っていった。
それでもなんとか食ってはいけるくらいの客は来るようで、潰れることはなかった。
黄色掛かった柔らかな照明。いつ行っても店内は空いていて、顔の見知らぬ者同士が二人、スツールに腰掛け、黙り込んだまま酒を飲んでいたのが先日見た光景だった。
店主は酒を作るのが好きだが、人と会話をするのが好きではないと言っていた。そんな変わり者の店主が営む店だからか、いつ行っても客は草臥れた中年男ばかり、それも揃いも揃って陰気臭い顔ばかり並んでいた。
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