ホラー小説のネタ探し

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    「どうです? なかなか素敵なところでしょう? 特に、こちらのキッチンが使い勝手の良いタイプでしてね。使う人間の気持ちになって設計されていまして……」  まずは一軒目。不動産屋が田中に色々とアピールする間、私は勝手に他の部屋も含めて見て回ったのだが、怪しいものは何もなし。扉や家具の隙間など、私みたいな者にしか覗き込めないような狭いところまで調べてみたが、本当に何も見つからなかった。怪しいものどころか、まさに塵ひとつ落ちていないというレベルにまで掃除されていて、そちらに驚かされるほどだった。 「こちらの物件は、玄関スペースの吹き抜けが特徴でして、毎日この開放感を味わえるのが……」  二軒目でも同様だった。不動産屋や田中から離れて、私ひとりで動き回ってみたが、完全に空振り。 「こちらは、この窓からの見晴らしが最高で……」  三軒目以降も同じで、途中から私は飽きてしまったが、それでも最後の部屋までは同行して……。 「一応は条件に合致しますので、こちらも案内しますけどね。ここはいわゆる事故物件に相当するところでして、先々代の住人が亡くなり……」 「えっ、事故現場!?」 「いえいえ、『事故物件』の『事故』はそういう意味ではありません。普通に老衰で亡くなったのですよ。それでも『誰かが亡くなった場所は縁起悪い』と考えるお客様も多く……」  田中も「そんな物件は嫌!」という態度だったが、むしろ私は興奮。ようやくホラー小説のネタになりそうなものが出てくるのではないか。  しかし私の期待とは裏腹に、それらしき痕跡は一切なし。既に全て消された後だった。  もちろん、ここで亡くなったという先々代の住人が幽霊となって出てくることもなく……。   
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