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翌朝、カイルとさくらはあの山里へ来ていた。
海里が中学校へ登校した後、思い出のこの地を訪れていた。
二人はしっかりと手を繋ぎ、目の前に広がる景色を眺めている。
昨夜二人は、夜遅くまで積もる話をした。
カイルがアメリカへ帰った後、さくらの妊娠が分かった。
さくらが産むと言った時、
さくらの両親は最初は悩んでいたが、最後は受け入れてくれたそうだ。
そして孫である海里を、さくらと一緒に大切に育ててくれた。
さくらの父は、2年前に病気でこの世を去った。
その後さくらは、母親と二人で旅館を経営していると言った。
小さかった海里も、この春中学へ入学した。
『海里』と名付けた理由は、発音がカイルに似ていたから。
そして、カイルとさくらを隔てる大きな『海』と、
さくらがこよなく愛する『花霞の里』の一文字を使ったのだと、
さくらは教えてくれた。
カイルは、目の前に広がる『花霞』を懐かしい気持ちで見つめていた。
そして穏やかに言った。
「僕は日本へ移住する事に決めたよ! これからは息子の傍で成長を見守りたいんだ」
さくらは嬉しそうにうんと頷くと、
カイルの首に両手を回し、甘えるように抱き着いた。
14年経っても、さくらはとても美しかった。
カイルはそんなさくらを強く抱き締めると、
あの時と同じように情熱を込めてさくらの唇を奪った。
『花霞の里』は、あの頃と変わらない美しさのまま、そこに存在していた。
それはまるで、
14年の時を隔てても褪せる事のなかった二人の愛のように.....
<了>
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