プロローグ

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ただ、昨年の暮れから作品及びホームページ等の 更新が止まり新作を待ち望む読者は焦りと嘆きを 昂らせ、出版社には未だに心配のメッセージが 絶えない。 希海が特に気に入っているのは、「いつかの春、ここで会えたら」。 桜の木の下に恋人の亡骸を埋めた主人公の男性が、彼女と過ごしたかけがえの無い日々に想いを馳せながら晩年を過ごす姿を痛切な文で描いた 白鳥弥恵の代表作であり最後に書かれた作品で ある。 「何度読み返しただろう、内容覚えちゃったよ。」 予鈴が鳴り、二人は腰を上げる。 「早く戻って来ると良いね、白鳥先生。」 葉山さんのこの言葉も、何度聞いたか分から ない。うつむき歩く希海の肩を、葉山さんは 励ます様に優しく叩いた。
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