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「あ、ちょっと!」
私はとっさに追いかけようとした。
だけど、まるで霧の奥に姿を消すみたいに、一瞬で見えなくなってしまった。
「なんだったの……?」
呆然としていると――
ヒラリ、と。
桜の花びらが一枚、プールの水面に落ちた。
すると、信じられないことが起きた。
薄ピンクの花びらから、色がにじんだのだ。
傷口からあふれ出たような、鮮血の色が。
雨のように花びらが落ちてきて、色がにじんで、プール全体が染まっていく。
どんどん水が鉄くさくなっていき、ドロドロに粘度が増していく。
「なにこれ!?」
とっさに周囲を見渡した。
こんな不気味な現象が起きているのだから、他の客たちが騒がないはずがない。
「ねー。これどう思う?」
「いいじゃんいいじゃん」
「だよねー」
それなのに、全く気付いている様子がない。
店の人すら反応していない。
なぜだろうか。
考えられる理由は、一つだった。
(私が――私だけがおかしいの?)
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