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再会の調べ
過去の傷を抱えた俺…千夜保(せんや たもつ)は、歌う事から遠ざかっていた。
夜、居酒屋にて。
チビチビと酒を嗜んでた俺の耳に、小さなテレビから流れてくる音声が耳に入った。
『今週の第1位は…諸橋香澄(もろはし かすみ)さんです!』
アナウンサーの紹介と共に1人の綺麗な歌手が出てくる。
それは、かつて高校生時代、共に歌手の夢を目指していた恋人の姿でもあった。
「私、彼女の歌、好きなの!」
「俺も好き!ルックスだけじゃなくて、声も歌い方も良いよな!」
俺の近くのカウンターで酒を飲んでいたカップルらしき若い男女が盛り上がる。
香澄は、まだ新人ながら若い層を中心に支持されていた。
やがて、曲紹介になり、香澄が画面の中で歌い始める。
その歌声は、かつての歌姫として一世を風靡した有花(ゆうか)の再来だと言われている位、偶然にも声も音程の取り方も似ていた。
その伸びやかな歌声が流れる中、居た堪れなくなった俺は、勘定を払うと居酒屋を後にした。
俺は有花の1人息子だった。
有花…お袋は、忙しい仕事の合間に俺に歌うことや音楽活動の良さを教えてくれた。
物心ついた時から歌に囲まれて育った俺が、お袋と同じ歌手の道を目指す気になるのに、そんなに年月は掛からなかった。
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