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「保!お友達と喧嘩したんですって?駄目じゃない!」
俺が幼稚園児の頃。
家に帰るなり、お袋は幼稚園の先生から報告を受けていたのか、そう言って俺を叱った。
「だって、アイツらカーチャンの事、テレビにばっか出てて俺のことなんかどうでもいいって思っているに決まってるって言うから…」
それだけじゃない。
「カーチャンが毎日、家にいないからお前んちはゴミだらけだって…」
お袋は俺が話し終わると、暫く俺の顔を、苦笑めいた表情で見詰めていたが、やがて。
「保、イライラを吹き飛ばす風を起こす方法を教えてあげよっか?」
笑顔で俺の目を見て言った。
「風を…?」
「そうよ!」
お袋は俺の手を握ると、「おいで」と言い、縁側から一緒に庭に出た。
庭に出たところで、お袋は俺の手を離すと、両腕をいっぱい広げて歌を歌い出した。
すると、始め静穏だった庭は、本当に、まずそよ風が吹き始め、少しずつ強くなっていき、歌がサビに入る頃には本当に風が吹いていた。
「スゲー…!」
信じられないことだが、その時、お袋は確かに風を起こした。
俺は幼心に、お袋の事を誇りに思うと共に、イライラも本当にいつのまにか吹き飛んでいた。
お袋が歌を歌い終えると、風は何事も無かったかの様に止んだ。
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