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「保も一緒に歌ってみる?」
お袋は俺の目を見詰めながら、笑顔で訊く。
その笑顔はテレビで観る作りものの笑顔じゃなく満面の楽しそうな無邪気な笑顔だった。
俺は半分そんなお袋に見惚れて、放心したまま頷いた。
「う…うん」
「じゃあ、歌お!今、ママが歌った歌、保も歌える?」
お袋の歌は俺も好きで毎日のように聴いていたから、歌詞は覚えていた。
「うん!歌える」
「じゃあ、いくよ!せーの…」
お袋の声を合図に、俺はお袋と一緒にお袋の歌を歌い始めた。
そよ風が再び吹き出す。
始めあった小っ恥ずかしさは、徐々に強くなっていく風と共に吹き飛んだ。
お袋と共に声を歌にして発散する爽快感が、まだ小さかった俺の全身を駆け巡った。
スゲー気分良い!
何かからの開放感を、肌で風を感じながら俺は声を大にして、まだ声変わりする前の歌声を庭中に響き渡らせた。
アカペラの歌が終わった頃には、風は止んだけど高揚感は強く俺の身体を満たした。
「楽しい!もっと歌おうよ、カーチャン!」
「うん!良いよ!何度でも風を起こしちゃおう!」
俺とお袋は、お袋の色々な曲を声を合わせて歌いあった。
俺が歌い疲れて眠ってしまうまで、小さな合唱は続いた。
翌日から俺は幼稚園でイライラした時、皆の前で歌を歌ってみた。
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