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「桜が見られない?」
二位様に呼び出されて阿彌陀寺から帰った遣いの話を一緒に聞いて、私は二位様の御前だというのに情けない声を出してしまった。
私たちは陸で過ごすとき、いつも阿彌陀寺にある主上の墓石を窓にする。窓にするというのは、陸のことはそこから眺められるが、そこから出歩くことはできないという意味である。例外は人の心や体で、特に平家の祟りを知る者、恐れる者には、離れていてもある程度干渉することができる。以前の琵琶法師を呼んだ宴も、目の見えない琵琶法師の心を惑わせて墓石の前まで連れてきて、私たちは墓石の中の幻の御殿で彼の歌を聞いた。
しかし、前回訪ねた時から数百年経ち、墓石を背の高い草が取り囲んでしまっているらしい。平家の墓地がそのように荒れ果ててしまっているのも嘆かわしいが、もちろん私たちにはその草を取り払うどころか、そよがせる力もない。境内には立派な桜の木があったはずだが、草丈の間からわずかに幾片、舞う花びらが垣間見えただけだったという。
なんということだろう。桜が散っていたというならまだしも、そもそも見えない状態になっているのでは、草が枯れるまで、あるいは偶然墓石の真上に桜の木が生えて花をつけるまで、あと何百年主上をお待たせすればよいのか分からない。必ず花見をすると、主上にお誓い申し上げたのに。
二位様と私は、しばらく途方に暮れて顔を見合わせていた。しかし、私が
「ただ桜を見たいというささやかなお望みさえ叶わぬのですか、主上のようなやんごとない血をお引きになる方が......。」
とこぼしたとき、二位様ははっとお顔をお上げになった。そして、凛としたお声でこう仰った。
「なんとかなるかは分からないけれど、試してみたいことがあります。」
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