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ささいな日常のささいな会話でさえ、僕がどれだけ幸せを感じているのか……まいさんは、解っているのかな?
「僕、まいさんのオムレツ好きだな。
具沢山だし……オイスターソース、使ってるよね?」
汚れた調理器具を洗うまいさんを囲うように、流し台の縁に両手を置き、後ろからのぞきこむ。
「使ってるわよ。
……ってか、邪魔してないで、先に食べてなさいよ」
「えー? 今日は、帰りのバス乗り遅れたから、まいさんとの時間、一時間損しているんだよ? 少しでも、取り戻させてよ」
そのまま、まいさんを背中から抱きしめる。
甘酸っぱい香りを深く呼吸しながら、首筋にキスをして、やわらかなふくらみに手を伸ばした───ところで、手の甲を、泡だらけの指につねられた。
「いたっ……。
ちょっとくらい、いいでしょう? まいさんに触らせてよ。じゃないと僕、『まいさん欠乏症』で死んじゃうよー」
「……あんたが死にそうなのは、お腹が減っているせいよ。早く食べないと、冷めちゃうじゃないの」
あきれたように僕を斜めに見上げてくるまいさんに、負けじと言い返す。
「じゃあ、せめてチューだけでもさせてよ。そしたらあきらめて、ご飯食べるから」
「……嫌よ。あんたのキスってヤラシすぎて、それだけで終わんないじゃない」
僕を上目遣いに見て、唇をとがらせるまいさんに、くすっと笑ってみせた。
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