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多香子さんは、『シャル・エト』のパティシエールだ。
まいさんとすごく仲が良いみたいで、まいさんとの会話でも、よく出てくる女性だった。
「なんですか?」
半開きの扉から、小柄な身体を少しだけのぞかせ、僕を手招きする多香子さんに、近寄った。
「ね、今日も舞さんの帰り待ち、してるよね?」
「えぇ、まぁ」
「だよねだよね、カレシくん、舞さん公認のストーカーだもんね!」
「……はぁ」
面白そうに僕を見上げる多香子さんに、苦笑いしながら相づちをうつ。
「はい! じゃあ、そんなキミに、プレゼント!」
差し出されたのは、名刺大のカードケースに、数字の書かれた紙が入った物だった。
角に空いた小さな穴に、30センチほど輪になったヒモが、通されている。
……プレゼントって。コレ、なんだろう?
首を傾げながら受け取ったそれを見つめる僕に、多香子さんが言った。
「それ、業者さんとか来客用の館内パスなんだけど。
特別に、今日だけカレシくんに渡しとくから、閉店間際になったらお店に来てね」
「……ええっと、ごめんなさい、よく解らないんですが」
「あっ、順序立てて話さないと、イミ解んないか!
今日ね───」
多香子さんが言いかけた時、店のほうから、
「森下さん、お願いします」
との声が、聞こえてきた。
少し高めの声音は、まいさんの接客用の声だった。
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