5.多香子さんの『お説教』

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多香子さんは、『シャル・エト』のパティシエールだ。 まいさんとすごく仲が良いみたいで、まいさんとの会話でも、よく出てくる女性だった。 「なんですか?」 半開きの扉から、小柄な身体を少しだけのぞかせ、僕を手招きする多香子さんに、近寄った。 「ね、今日も舞さんの帰り待ち、してるよね?」 「えぇ、まぁ」 「だよねだよね、カレシくん、舞さん公認のストーカーだもんね!」 「……はぁ」 面白そうに僕を見上げる多香子さんに、苦笑いしながら相づちをうつ。 「はい! じゃあ、そんなキミに、プレゼント!」 差し出されたのは、名刺大のカードケースに、数字の書かれた紙が入った物だった。 角に空いた小さな穴に、30センチほど輪になったヒモが、通されている。 ……プレゼントって。コレ、なんだろう? 首を傾げながら受け取ったそれを見つめる僕に、多香子さんが言った。 「それ、業者さんとか来客用の館内パスなんだけど。 特別に、今日だけカレシくんに渡しとくから、閉店間際になったらお店に来てね」 「……ええっと、ごめんなさい、よく解らないんですが」 「あっ、順序立てて話さないと、イミ解んないか! 今日ね───」 多香子さんが言いかけた時、店のほうから、 「森下(もりした)さん、お願いします」 との声が、聞こえてきた。 少し高めの声音は、まいさんの接客用の声だった。
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