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僕のいるセンターコートの片隅から、小さなモミの木に、飾り付けを行っているまいさんの姿が、見える。
この時間帯、まいさんが一人で店番をしているのは、知っていた。
……本当は、お店の閉店作業を手伝いたいけど……。
一度さりげなく提言した僕を、まいさんはあっけなくそっけなく、断った。
「ダメ。あんたにやるバイト代なんて、ないから」
「えっ? お金なんて、いらないよ? そういうんじゃなくて、僕は単純に、ボランティア精神で……」
「仕事は遊びとは違うの。必要ない」
───僕のたいていの我がままは、
「仕方ないわねぇ……」
って、嫌々ながらも聞き入れてくれるのに。
まいさんは、こと仕事に関しては頑として譲らないところがある。
そういう『プロ意識』をもつまいさんは、素敵だと思うけど……やっぱり、なんだか寂しかったりもする。
なんていうか……たまには、そういう『ずる』も、必要なんじゃないかなって、思ったりもするし。
だけど、他の人が当たり前に『こズルく』生きているのを横目に、潔く格好よく生きているのが、まいさんって人だから。
そして僕は、そんなまいさんが大好きで。だからこそのジレンマだったりもするんだ。
「そんなことより、僕がこのあいだ頼んだ件、どうなったの?」
視界にまいさんを入れたまま、強引に話題を切り替える。
透さんは、大げさな溜息をついたあと、悪ィな、と、低い声で謝った。
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