10.僕の終わらない夢

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「あの、サヤちゃんは僕にとって、前に住んでいた所のご近所さんで。たぶん幼なじみって言い方が、一番しっくりくると思うんだけど……。 あ、スーパータチバナ、知ってるよね? 県内に十数店舗あるし、市内にも三店舗あるくらいだから」 「……知ってるわよ、もちろん。そこのお嬢さんってことね。分かった」 この話題はこれでお(しま)いと、いわんばかりに、まいさんは感情をこめない殺伐とした言い方をした。 ……なんだか、お終いにできないような雰囲気だよ、まいさん? 付けっ放しのテレビからは、バラエティー特有の、観客の笑い声が響いてきてる。 まいさんの好きな、関西出身の男性アイドル二人組が司会の、歌とトークが主体の番組だった。 まいさんは笑いもせずに、テレビ画面を見ていた。 まいさんが特に好きな『彼』の絶妙な言い回しに、観客はわいているのに。 「まいさん、あの───」 「サヤちゃん、て。……ただの幼なじみって、わけじゃないんでしょ?」 「え?」 「言い方! あんたの、『サヤちゃん』の言い方が……なんか、特別っぽい感じがして……」 なんか、ヤだったの……、と、付け加えたまいさんの声は、頼りなげなささやきで。 マグカップをテーブルに戻して、まいさんは抱えたひざに顔を伏せた。 僕は、意識してサヤちゃんの名前を口にしたわけではないけど。 まいさんに、そういう『嫌な感じ』を与えてしまったのだとしたらすごく申し訳ない気がした。
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