10.僕の終わらない夢

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「お父さんもいないし……今夜は、まいさんを眠らせなくても、いいよね?」 耳もとでささやくと、一瞬ためらった気配がしたけれど、 「少しは寝かせてよ。 ……明日、休みだけど、バレンタインの売場作りに行かなきゃいけないんだから」 なんて、色気のない返事をくれた。 ……うん。 いつもの、憎らしいくらい愛しい僕のまいさんだ。 ***** 厚いカーテンに覆われなかったわずかな隙間。レースのカーテンから射しこむ陽の光が、幸せそうな寝顔のまいさんを照らしていた。 ───しなやかで優美な獣のような姿態も、僕の上で淫らに腰をくねらせていた悩ましげな表情も、嘘みたいに、脱ぎ捨てられて。 無邪気すぎる寝顔は、そのすべてが、僕の夢想であったかのように清麗だった。 光のまぶしさに、小さな声をもらして、まいさんが寝返りをうつ。 なよやかな肩のラインがあらわになって、僕の溜息を誘った。 ───夢みたいに、幸せで。 夢のように、美しくて。 いつも、僕の胸にある想いは、この夢がいつまでも続いてくれたらと、願うことだった。 「……風邪ひいちゃうよ、まいさん」 そんな口実で、もう一度まいさんを抱き寄せて。 あたたかな体温を共有して。 僕は、ふたたび『夢のなかの夢』へと、潜りこむ。 ***** 「ちょ、ちょ、ちょっと、大地っ……! 起きなさいよ、遅刻しちゃうわよ!?」 「ん~……大丈夫だよ、まいさん。僕、一時限目はサボりの予定だから……」
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