10.僕の終わらない夢

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「何が大丈夫なのよっ。それ、全然大丈夫とは言わないでしょ! ってか、離しなさいよ、くっつき過ぎでしょ、コレ!」 「だってまいさん、あったかくてやわらかくて、気持ちいいし……」 僕の腕を、バシバシと遠慮なく叩きまくるまいさんの手に指を絡め、自由を奪う。 「だから、あと少し……僕に夢を見させてほしいな」 「……とっくに目ぇ覚めてるのに、なにアホなこと言ってんのよ。寝ぼけてないで早く支度するわよ?」 僕の腕のなかでもがきながら、まいさんがあきれたように息をつく。 ちょっと笑って、僕はまいさんの頬に唇を寄せた。 「……ね、『邯鄲(かんたん)の夢』って、知ってる?」 唐突すぎる質問は、思惑通り、まいさんの動きを止めさせた。 身体をひねって、僕を見返してくる。 「───朝っぱらから頭使わせないでくれる? ……なんだっけ……人生のはかないことの例え……だったっけ?」 難しそうに眉を寄せるまいさんが可愛いくて、とりあえず『おはようのチュー』をしてから、僕は「ほぼ正解」と微笑む。 「盧生(ろせい)っていう青年が、邯鄲の都で仙人から借りた栄華が思いのままになるっていう枕で、人生一代の栄華を極める、ものすごく長い夢を見るんだけど、目覚めたら(あわ)を煮炊きするくらいの短い間だった───……っていう、中国の故事だよ」
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