3.まいさんとの『秘めごと』

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3.まいさんとの『秘めごと』

「あそこのシュークリーム、まぢヤバイよね~ッ」 まいさんのお仕事がお休みの日は、とにかく早く家に帰ることだけを考える。 足早に昇降口へ向かう途中、階段の踊り場にいた女子の会話が、耳に飛びこんできた。 『シュークリーム』『ヤバイ』という単語に、一瞬、眉を寄せたものの、すぐにそれが「好意的表現」のほうなんだと気づき、止めかけた足を階段に下ろした。 ……どうにも、苦手な表現だった。 「あっ、進藤(しんどう)くん! いま帰り~?」 当たり前のことを訊いてくる彼女は、確か同じクラスだったはずだ。 鼻にかかった甘ったるい話し方に聞き覚えがあった。 「ねぇねぇ、進藤くんも、『シャル・エト』のシュークリーム、好きだよね? 前に買ってるところ見かけたし」 「なにソレ、進藤ってスイーツ男子なのぉ?」 「……ごめん、急いでるから。じゃあ」 僕が好きなのは、シュークリームじゃなくて、まいさんなんだけど、と。 心のなかで訂正して、僕は彼女たちに背を向けた。 『シャル・エト』っていうのはまいさんが勤めている洋菓子店の名前で、正式には『シャルル・エトワール』という。 以前、まいさんが、 「めっちゃ横文字だけど、和菓子も扱ってるし、おまけに店名由来がよく解んないんだよね~」 と、言っていたけど、お店の紙袋や箱に描かれたデザイン文字はけっこう洒落ていて、僕は好きだった。
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