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6月
草花のにおいを運ぶ6月の風が心地良い。
「悪くねぇな…」
土手の芝生に寝転がって、俺は思いつくままに歌っていた。
ここなら問題なくやって行けそうだ。
ふと目を向けた先に、女子高生が立っていた。走って来たのだろう…肩で息をしている。
見た事ある制服だと思った。
無表情のその女子高生は、俺から3メートルくらい離れた場所に腰を下ろした。
あぁ、そうそう…あれはさっき手続きに行った高校の制服だ。
…まだ授業は終わってないんじゃないか?
彼女はじっと真っ直ぐ前を見つめていた。 川の流れでもなく、向こう岸を行き交う人たちでもなく…ただじっと、前を見ていた。
元々人間観察が趣味な俺は、その女子高生に完全ロックオン状態。小さく口ずさんでいた作りかけの歌を歌うのをやめて、次の展開を想像した。
泣くのか。叫ぶのか。笑うのか。
その時強い風が吹いた。
女子高生の髪が舞い上がった。
答えはわからなかった…。
勢いよく立ち上がり、彼女は俺の後ろを駆け抜けて行った。
神崎友音。
これが、3ヶ月後に「初めまして」を言う彼女との出会いだった。
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