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陽奈(はるな)、パパ決まったから」 「あ、……うん。わかった」  父の名古屋転勤。  喜んであげなければ。優しい父のために。  頭ではわかっているのに、どうしても笑顔が作れない。 「ごめんね、陽奈。せめて小学校卒業まで待てたら良かったのにね。でも──」 「大丈夫! パパが名古屋行きたがってたの知ってるし。あたしずっと東京だったからちょっと寂しいけど、すぐ慣れると思う。中学からいきなり知らないところ行くより今のほうがいいよ、きっと」  父の勤める会社は名古屋近郊に研究所がある。父は研究職で、当初から研究所勤務を希望していたのだそうだ。  その願いが、十五年も経った今になって叶う。  父が陽奈の友人関係や生活環境の変化を考えて、幼稚園に入って以降は異動について迷った末希望を控えていたのも知っていた。  でなければもっと早く移れていただろうことも。  東京本社の研究部門で父のチームがそれなりの結果を出したこともあり、今望めば研究所に行ける可能性が高いのだという。  ただ、陽奈のためにこのまま東京に残るべきではないか、とこの状況においても考えてくれていたようだ。 「パパ、あたしなら大丈夫。もし名古屋行ったらもうずっとそこにいるんでしょ? だったら早いほうがいいよ」  両親の会話を耳にして、父の背中を押したのは陽奈の意思だ。
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