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陽奈は小学五年生になってまだ三ヶ月足らず。
もし父が職場を変わるなら夏だという。
転校するのは正直嬉しくなどなかった。それでも、自分のために父に我慢を強いる気はない。
父が陽奈のことを考えてくれているからこそ、父のために協力できることはしたいと考えていた。
もし向こうが一方的に家族を従わせることしか考えないような人間なら、おそらく反発もしただろう。
両親は、せめて陽奈の小学校卒業までは父だけが名古屋に、ということも考えていたらしい。
しかしあらゆる面で大変だろうことは子どもでもわかる。
一時的なものなら単身赴任もあり得るが、東京に「帰って」来ることはまずないのだ。
──家族がバラバラになるのは嫌。あたしがちょっと頑張ればいいだけ、だから。
陽奈の通う小学校は小規模で、一学年に二クラスしかない。二年毎にクラス替えはあるが、元が少ないので皆が友人のようなものだ。
その中で、五年生になってから急速に親しくなったクラスメイト。
教室で、落としたボールペンを拾ってもらった。「カッコいいな!」と褒めてくれた。それが、きっかけ。
その彼、……小野寺 宏基との別れが何よりも辛かった。
こうなって初めて明確に自覚する。彼が好きなのだ。
きっと心の何処かにはあったその気持ちに、陽奈は改めて気付かされた。
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