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【2】
「陽奈、忘れ物ない? ──まあ何かあってもママがまた届けるけど、すぐには無理だからね!」
「もう何回もチェックしたから! もし忘れてても、東京で何でも買えるよ」
陽奈は高校を卒業して、四月から東京の大学に通うことになった。
東京から名古屋に転居して、そこで小学五年生の夏休み明けから高校まで過ごした。
本当は嫌だった。来たくなかった。知らない街。
けれど、実際に暮らした名古屋に悪い想い出はない。陽奈にとっては「第二の故郷」とさえ呼べる場所になった。
両親は今後もこの街で生きていくのだろう。
その覚悟があるからこそ、最初に入った社宅を出て今のこの家を買ったのだろうから。
だから陽奈にとっての実家は今もこれからも名古屋なのだ。
受験に発表の合間を縫って、母と二人東京での住居も探した。無事合格し部屋の正式な契約も済ませて、もう明日から一人暮らしが始まる。
狭いワンルームマンションには、大層な家具など必要ない。ベッドと机、本棚は家電類と共に向こうで買って配達してもらうことになっている。
この家から持って行くのは、着替えや寝具、本に勉強道具等「小物」ばかりだ。
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