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引越し業者を頼むと高く付くため、宅配便を利用することにした。
リビングルームに並んだ大きな段ボールは、このあと集荷に来てもらうことになっている。
荷物を送り出したら、明日の朝には陽奈自身も東京に向けて出発する予定だ。
そして午後到着指定にした宅配便を新居で受け取って、新たな生活が始まる。
──受験や何かで何度も行ってるから、久しぶりの東京、ってわけじゃないけど。でも「住む」のはもう八年ぶりくらいになるんだよね。
転校して以来、ずっと細く長く連絡を取り続けている数人の友人とも、また会える。
本当に会いたかった「彼」とは、あの日別れたきりだ。
住所を知らせることもできないまま、終業式にペンを押し付けたまま。
もうすっかり忘れられているだろう。陽奈にしても、この八年近く常に彼のことを考えていたとは言えない。
それでも忘れ去ったわけではなかった。淡く苦い、──それでも温かで甘い、初恋の記憶。
会うこともあるだろうか。
今どこでどうしているかもしれない、……東京にいるのかさえ定かではない、彼と。
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