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「レオが考えた図案だから」と言って、たっちゃんさんは、左足の図案は仕上げまで俺にやらせてくれた。
高校通ってた頃は、アニメ好きの友達のために、こういうポップなものも描いてやったりしてたな、と思い出す。
久しぶりで気合い入れて描いた結果、普段のたっちゃんさんの画風と真逆になった。これ、右脚描きづらいかなと不安になって、恐る恐るたっちゃんさんに見せた。
「おお、すごい!やっぱ俺じゃ絶対描けないやつ!めちゃくちゃいいよ、ありがとう。右脚、この画風真似しちゃうけど大丈夫?」
「いや、もちろん。やりづらいかもだけど」
「全然、思い切ってやってみるわ」
たっちゃんさんの笑顔を見て、俺はずいぶん緊張していたということに気付いた。自分の描いた絵を、誰かに気に入ってもらえるだろうかという視点で見るのは、初めてかもしれない。そもそも、誰かの希望を聞いて描くことも。彫り師を一生の仕事にするんだったら、彫る腕がいいだけじゃなく、相手の気持ちを汲み取れなきゃやっていられないだろう。
月曜日は、あいにくの曇天で、今にも雨が降り出しそうな様子だった。
中野駅北口、商店街の入り口でリサさんと落ち合って、どんどん奥に進んでいく。
「わー懐かしいー!どきどきしてきたぁ!」
リサさんが子供みたいにはしゃいでいて、俺まで嬉しくなる。
あの中野ブロードウェイのシンボルともいえる、真っ赤な入り口が見えた。いや、俺には色は分からないけれど、知識として知ってはいるから、これは赤。
「おお、何か入り口から圧がすごい…」
たっちゃんさんが、カシャと写真を撮った。
事前に調べていた通り、エレベーターに向かう。一旦四階まで行って、それから降りてくることにした。たっちゃんさんもテンション上がって
「リサさん、行きたいお店どこですか?どこまでもお供しますよっ」
とか言っている。
「行きたいお店すっごいあるけど、コスプレ衣装の店と、アイドルのカードとかの店と、映画のポスターとかの店と、フィギュアの店は絶対!」
「え、リサさんコスプレやるの?」
「やらないけど、見てるだけで楽しいんです」
リサさんの希望のお店をあっちこっち回りつつ、みんながここ気になるねとなった店や、俺が行きたかった同人誌や自主制作本の店にも寄った。
「へー、同人誌って二次創作とかだけじゃないんだ」
「手芸のレシピだったり、小物の編み図が載ってる季刊誌があって、まとめて買ったりするんです」
たっちゃんさんは、鉄道模型や鉄道グッズの店に釘付けになっていた。一万円弱の蒸気機関車の模型を買っていた。店の棚のおもちゃコレクションに加わるんだろう。
狭い店内で、俺とたっちゃんさんが周りを確認しつつ、時に車椅子を押したりして、じっくり商品を見ることが出来た。人とすれ違う時のバックも、三人でなら余裕だった。
この機会がなければ、リサさんがここに来るのはずいぶん先だったかもしれない。たっちゃんさんの仕事に口出ししてしまったけれど、俺はひとつも後悔していない。
昼時を少し外して、レトロというか古いままと言うか、な喫茶店に入った。
「私ここのナポリタンが大っ好きで。めちゃめちゃ食べたかったんです」
椅子を一脚どけてもらえれば、難なく席に着くことが出来た。こうやって、「できる」を確認することがきっと大事なんだ、と思った。
「じゃあ俺もナポリタン、大盛りにしてもらお」
たっちゃんさんがリサさんに続く。俺は、目玉焼きを乗せたカレーライスにした。想像通りかつ期待通りの味で、みんな「これこれ~」と言いながら貪った。
遊び尽くした一日が終わり、みんなくたくたで、でも興奮冷めやらぬって顔で、中野駅の改札で別れた。
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