第2章「中野ブロードウェイ」

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「レオ、ありがと。絶対リサさんと行くべきだった。リサさんの、タトゥーへの気持ちが全然違ったと思う。いいもの作れるように頑張るわ」 「ううん。俺すごい楽しみ。どんなのが出来るか、想像つかない。図案、見せて」  三日後、たっちゃんさんのデザインが出来上がった。金魚よりも優しくつぶらな瞳のクジラは、青色ベースで、背中の部分からピンクのグラデーションを入れたらしい。  クジラが中野ブロードウェイの赤い入り口を通り抜ける、その周りには、ガチャガチャあり、アイドルのチェキあり、テディベアあり、寅さんっぽい男性が描かれた映画のポスターあり。  おもちゃ箱みたいな、中野ブロードウェイのカオスをそのまま濃縮したような、わくわくする図案だった。 「うわ、これリサさん絶対喜ぶよ」 「いいかな、大丈夫かなぁ」 「絶対大丈夫。早くメールしなよ」  図案のデータを見たリサさんから 「最高、最高、最高。これが私の脚に彫られて、毎日眺められるなんて幸せです!」  と返信があり、俺とたっちゃんさんはお互いの功績をたたえて、手が痛くなるようなハイタッチをした。  完成したリサさんのタトゥーの写真が、たっちゃんさんのお店のインスタに掲載された。物凄くバズる、とかはないけれど、普段とは違うタイプのアカウントからたくさんいいねが付いたらしい。  たっちゃんさんは、 「俺も、店も、デザインとかお客さんの幅広がったよ。リサさんとレオに感謝だよ」  そう言いながら、引き出しから封筒を取り出した。 「これ、デザイン料。お疲れ様、ありがとうございました」 「えっ、俺、そんな大したことしてないし…」 「何言ってんの。おっきな目の金魚とか、アリスとか、あんなの俺じゃ思いつかないよ?それに、クリエイティブ職はちゃんと対価貰わなきゃ。あれは、レオの仕事だよ」  何だかくすぐったいけれど、母さんやばあちゃんから貰う小遣いとは全く違うお金を貰い、ちょっと俺は大人になったような気がした。 「レオはさ、写実的な絵も上手いけど、イラストも上手いし、レオにしかないオリジナリティがあるよ。将来レオが有名になったら、俺にも絵売ってね」  たっちゃんさん、俺が絵やデザインで有名になる日なんか来ないよ。今はたっちゃんさんの力を借りてお客さんの要望に応えられたけど、一人だと、クライアントの要望に叶う色の絵はきっと描けないから。  でも、そんなこと一切気にせず、俺の絵を気に入ってくれたのが何だかうれしかった。  結果、こんな言葉が口を突いた。 「別に、今描くけど」
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