第3章「目玉」

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 高校に入学して割とすぐ、俺にしては珍しく、かなり仲のいい友達が出来た。その子は美結という同じ美術部の女子で、俺と同じくらいアニメが好きだった。  美結は、生活態度が良く成績優秀で、模範的生徒というやつだった。課題も予習復習も適当で、毎日毎週深夜アニメばっかり見てた俺と同等に、アニメを観る時間をしっかり確保出来ているのが不思議だった。  俺たちは「今期はあの作品が気になる」とか話したり、時に同じ番組を観ながらスマホでメッセージを送り合い、「実況」するくらいの仲だった。男女含めて、今までで一番仲の良く、日常的に笑い話をする友人だった。  美結が客観的に整った容姿をしていたこともあって、頻繁に 「お前ら付き合ってんの?」 「良いなー俺も美結ちゃんと仲良くしてぇわ」 などと言われるのが、とても、とても鬱陶しかった。  高一の夏休みが終わる頃、美結が「課題ちゃんとやってんの?勉強教えてあげる」と言ってきた。俺は 「平日の昼間なら親居ないし、ウチ来てもいいよ」 と応えた。  正直俺は、勉強はどうでも良かった。  久々にアニメの話が思いっきり出来ると思ってワクワクし、中学時代に好きだった作品のDVDを引っ張り出したりした。  当日、初めて見る美結の私服は、夏とはいえそれじゃ肌寒くない?というくらい、肩が出ていて、短めのスカートだった。実際、冷房寒くない?と言って、ひざ掛け替わりのタオルケットを渡したぐらいだ。  俺の部屋で一応ノートと参考書を広げて勉強をしたが、どうにも、距離が近かった。いつも通りフランクに話しかけても、「うん……」と言って沈黙し、じっと見つめられる。俺は、何かを期待されているようで、そしてそれが、異性としての期待のような気がして、じわじわと居心地の悪さを感じた。  思い違いだ、と打ち消したかったけど、教室でこんなに顔を近づけたり、腕に触れられることはなかった。  太腿に手を置かれたとき、居心地の悪さがはっきりとした嫌悪感に変わった。耐え切れず、十六時半だけど 「もう遅いし送るよ」 と言って、無理やり帰らせた。美結は、別に送らなくていい、と言って、振り返りもせず玄関のドアを閉めた。  それ以来、美結に連絡しても、かつて五行だった返信が一行になり、もう俺はこの子と友達では居られなくなったんだな、と悟った。  夏休み明け、俺は美術部内では「美結に散々期待持たせて冷たく振った男」になり、さらにしばらくするとクラスの男子の間では「部屋で女子と二人っきりなのに怖気づいた男」になった。  こんなこと考えるって本末転倒な感じだけど、もし俺が女で、美結が男だったら、皆はあんなふうに噂したんだろうか。思い出と言えるほど古びていない記憶をかき消すために、ユイナさんの図案に向かい合った。
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