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たっちゃんさんがしみじみと言った。
「レオはすごいね」
「え、何が」
「うーん、だってさ、だいぶ動揺したり凹んだりしてるのに、結局レオのペースになったし、ちゃんとお互い伝えきったし。俺も……」
「俺も?」
「こんなふうに、出来てたらな、と」
え、と俺が言う間に、たっちゃんさんは無言で俺に背を向けた。新宿御苑で、淡々と語り切ったたっちゃんさんが、言葉に詰まっている。その背中に手を当てると、少しだけ震えていた。
たっちゃんさんのくるぶしに、蚊取り線香の煙を掻い潜った蚊が止まっていた。じっと動かないそいつは、今頃血を腹に蓄えているのだろう。叩いてやりたいが、それはたっちゃんさんを予告なく叩くことになってしまうし、「蚊が居るよ」と声を掛ける気にもなれない。
指先を近づけてそっと払いながら、俺は、たっちゃんさんの長身を支える、タトゥーを纏った足首が、想像以上に細く肌も白いことに気が付いた。
花火の消えた関門海峡の対岸に、門司の灯りが見える。一馬さん、もうたっちゃんさんを、此方に返してくれないか。いや、あなたは連れて行ってはいないだろうけれど、たっちゃんさんは、彼方に引っ張られたままなんだ。
俺が気持ちを伝え、たとえ振られても普段の俺達の空気感のまま居られたなら、それがたっちゃんさんの救いになるって、思ってた。過去に戻って、「するべきでなかった告白」を上書きできる、そう思っていた。
でもそれは俺の思い上がりだった。起きた出来事の上書きは出来ず、たっちゃんさんの後悔は彼にしか乗り越えられない。俺が告白したことで、俺達は似た道を辿りながらも、全く別の個人であるということが、かえって浮き彫りになった。
俺が出来ることは、過去を納めに行く手伝いだけだ。だから俺は明日、絶対に、たっちゃんさんを門司に連れていき、そして振り返らせることなく、下関まで連れて帰る。
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