第2章「中野ブロードウェイ」

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 二週間後、たっちゃんさんの店の定休日に、国立にある毛糸屋に二人で出かけた。そこは、俺が買ってもらったベストのブランドJAMIESON'Sの作っている、フェアアイルに最適な毛糸を全色取り揃えている。入り口正面の壁の端から端まで、全てJAMIESON'Sの毛糸が埋め尽くす。  たっちゃんさんが 「うわ、これ壮観…」  と呟いた。俺には分からないけど、きっと「色の洪水」というやつなのだろう。  事前に俺がざっくり決めたデザインは、ベースカラーは濃紺で、柄は明るめの緑を基調にしつつ、赤と黄色をアクセントに点々と配置したい、というものだった。せっかく目を借りられるのなら、特に見分けのつかない赤と緑をしっかり使ってみたいと思った。 「緑色と赤は、黄色と青どっちに寄せたいの?」 「えっと、緑は青寄りだけど深すぎない、彩度が高い緑で、赤は黄色寄りが良いかな」 「おっけ、じゃあこのへんかなぁ。この緑は、小学校で使うクレヨンに入ってるような、超オーソドックスな緑。赤は、けっこう黄み強めの、朱赤っていうか、日本的な赤みたいな」  はっきりした色味を使いつつ、懐かしさも出したかったから、その印象は俺のイメージに合っている、と思った。 「あ、それと模様のベースにグレー欲しいです」  グレーは分かるから、ここからここまでグレーだよ、ということだけ教えてもらって、ちょっと青みよりの薄めのグレーの毛糸を、自分で手に取った。 「これ、そこのテーブルに並べて、たっちゃんさん的にバランスどう思うか教えて下さい」  並んだ毛糸玉達を見て、たっちゃんさんはうーんと考え込む。 「赤がそんなに面積広くなくて、ほんとにポチっと差し色程度ならまとまると思う」  拡大コピーして持ってきた編み図を広げる。 「じゃ、この使う量が少ない色Cを赤にします。で、地の色の次に量が多いBをグレーに」  そうやって色の割り振りをし、必要な量を確認しながら買った。 「ありがとうございました、編むの、楽しみです」 「いいえー。俺も楽しかったよ。デザイナーみたいで。ていうかさぁ、敬語じゃなくていいよ?俺達バディじゃん!」  バディ。そうなんだろうか。俺が一方的に世話になる感じなんだけど。まあでも、敬語じゃなくていいよは採用しよう、と思った。 「休みの日に悪ぃな。まぁよろしく頼むわ」 「高低差すごっ。全然敬わないじゃん!」  たっちゃんさんが爆笑して、俺もニヤっと笑った。
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