魔法世界に転生するのに、神様が魔法スキルの在庫を持っていませんでした

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第3話  早朝に宿屋に着いたアンリは、宿屋の前の道だけじゃなく隣近所の道もホウキで掃いて綺麗にした。 「うちの前も掃除してくれたのかい」 「おはようございます。昨日からこちらの宿屋で働いているアンリです」 アンリは周辺の人が、お店から出てくる度に挨拶をした。 外の掃除を終えて、アンリは宿屋の中もホウキで掃いて、受付のテーブルをピカピカになるまで拭き始めた。 「なんだ、まるでうちの宿屋じゃないみたいだな」 いつもの時間に出てきたクロードは、ピカピカに掃除された宿屋の中に驚いていた。 「どれだけ早く来てたんだ」 「業務前に掃除だけ済ませておきたくて」 「掃除は業務時間になってからやればいいからな」 クロードは、アンリを気遣ってくれた。 最近は家族に疎まれて家にも居づらいアンリは、クロードの気遣いが嬉しかった。 「仕事をさせてもらえるのが嬉しくて、家を早く出てしまったんです」 「そうか。ちょっと、ついて来なさい」 クロードに連れられて食堂に向かった。 食堂では宿泊客の朝食の準備が始まっていた。 クロードは自分でコーヒーをいれると、アンリにもコーヒー牛乳かジュースをいれるように勧めた。 「コーヒーが飲みたいです。家では飲んだ事がないので」 「コーヒーは苦いから、牛乳と砂糖も入れればいい」 アンリは言われた通り、牛乳と砂糖をたっぷりいれた。 そして二人は飲み物をいれて、受付に戻った。 「明日からは朝来たら、好きな飲み物をいれて業務時間までゆっくりしていればいい」 「ありがとうございます」 「今日も一緒に受付に入って、業務を覚えてくれ」 「はい、よろしくお願いします」 朝食を済ませた客が、支度をしてチェックアウトして部屋を空ける。 チェックアウトの時間が過ぎてから、部屋を一気に掃除してシーツを取り替える。 午後になると新しい客がやってくる。 その繰り返しだ。 ◇◆◇  三カ月後 砂漠と海に囲まれるサンドラ王国は商業の取り引きから観光客まで盛んで、どこの宿屋も満室の事が多かった。 「部屋は空いてるかな」 他の宿屋が満室で、流れてきた客が今日もやってきた。 「今日はもう満室なんですよ」 クロードが客を断った。 「クロードさん、少しだけお時間頂いて、こちらのお客様とお話ししてもいいですか?」 「構わないよ」 クロードはアンリが何をする気なのか、検討もつかなかった。 「お客様、満室でご不便をお掛けしております」 「仕方ないさ」 「よろしければ僕の魔法道具で、他のホテルに連絡を取って空き室がないか確認させて頂きましょうか」 「そんな事してくれるの?頼むよ」 「空き室があるとは限りませんが、これからお調べ致します」 アンリはボタンを押して、コップのような魔法道具に口を付けて話し始めた。 「こちらクロードさんの宿屋です。そちらの宿屋がまだ満室のボタンを押してなかったので、空いてたらお客様を紹介したいのですが」 『まだ空き室があるよ。お客さんの紹介頼むよ』 「分かりました。では、お客様が直接向かうので、お出迎えよろしくお願いします」 プチ アンリはあっという間に、離れた宿屋の空き室を確認して、部屋を確保してしまった。 「空き室の確認が出来たのかい?」 「こんな事してくれる宿屋は初めてだ。次は絶対にこちらの宿屋に泊まりたいな」 この世界で、そんな事をする人間は初めて見た。 客もクロードも、アンリの早業にもビックリしていた。 「空き室のある宿屋の地図が書かれているので、気を付けて行ってらっしゃいませ」 アンリは早速、手書きの地図を男に渡した。 「何から何まで、本当にありがとう。また来るよ」 男は喜んで空き室のある宿屋へ向かった。 「これはどんな魔法を使ったのかな」 クロードが不思議そうに、まだ幼いアンリを見つめた。 「サンドラ王国の宿屋は満室で、他からお客さんが流れてくる事も多いですよね」 「そうだな」 「そこで他の宿屋と連絡用の魔法道具を使って、満室になったら各宿屋でボタンでお知らする事は出来ないか相談してたんです」 他の宿屋にもアンリが神様からもらった電話とよく似た魔法道具を渡してあった。 この魔法道具は、数を増やす事も可能なので、アンリのアイデアにはピッタリだった。 「なんだ、教えておいてくれれば良かったのに」 「すみません。使用できるか試してからお伝えしようと思ってたんですが、試す前にお客さんがちょうど来たものですから」 「それにしても凄い魔法道具だな。これは便利だぞ」 「はい」 クロードはアンリのアイデアと実行力に感心した。
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