魔法世界に転生するのに、神様が魔法スキルの在庫を持っていませんでした

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第5話 「お風呂、凄く気持ち良かった。国に帰ったら宣伝しとくよ」 「ありがとうございます」 「風呂の後は、冷たい飲み物が欲しくなったな」 「飲み物は食堂でお飲み頂けますよ」 「行ってみるよ」 アンリが受付にいると、宿泊客達がやってきて、大浴場の感想を聞かせてくれた。 「アリエルさん、大浴場の脱衣所に魔法で氷の入った箱を作って、そこに飲み物を入れて売りたいんですが可能ですか」 「氷の冷たさを巡回させた小さなロッカーを作って、おカネを入れて扉を開けられるように出来ますね。建築魔法と合作になりますが」 「それも面白い案ですね」 ニセフォールも賛成してくれて、ミニロッカーの扉を透明にして飲み物が見えるように工夫してくれた。 アリエルとニセフォールの合作で、脱衣所に冷たい飲み物を販売出来るようになった。 早速、脱衣所に飲み物を売るロッカーを設置した。 「これは何だ?」 大浴場から出た客が、透明の扉が付いたロッカーに目を留めた。 「お金を入れると冷たい飲み物が飲めるのか。着替えてから試してみるか」 宿泊客の一人が着替えてから100ゼルダの硬貨を投入して、フルーツ牛乳の扉を開けた。 「冷たい、まさかこんなに冷えていると思わなかった」 ゴクゴクゴク 「ぷはーッ、うまい」 「何だ?何が旨いんだ?」 大浴場から出たばかりの宿泊客達が集まり始めた。 「この箱に入ってる飲み物が、冷たくて美味しいんだよ」 「俺も飲みたい。風呂が熱かったから冷たい飲み物を飲みたかったんだよ」 「あ~俺は小銭を持ってこなかった。後で返すから貸してもらえないか?」 「いいですよ」 皆、ここで初めて会った他人同士なのに、何故か仲間のように気軽に話しを交わしていた。 「ここの支配人は子供のように見えるけど、凄いな」 「ああ、うちの国にも大浴場のある宿をオープンして欲しいよ」 「ああ、この宿屋ならどこに作っても成功間違いなしだ。でも、軌道にのるまでここの支配人の力が必要だと思うね」 「ノウハウは支配人の頭の中か。一体何者なんだ?」 ◇◆◇ 「こんにちは」 アンリは、クロードに呼ばれて一号店に顔を出していた。 「おう、来たか。忙しいのに悪いな」 「いいえ、大丈夫ですよ」 アンリは恩人とも言えるクロードに呼ばれて、嬉しそうだった。 「実は、マケドニヴァ王国やリュシオン王国から、うちの支店を出さないかって話しがきていてな」 「そうなんですか」 「その支店って言うのが、二号店と同じ宿屋にして欲しいって事なんだよ」 「そうだったんですね」 「┅┅」 「あの何か?」 まさか12歳になる前の自分に支店を作る相談をするとは思ってもいないアンリは、世間話のように相槌を打つだけだった。 「あ~、だからだな。二号店みたいな店を作るには、アンリ君の力がないと無理だって話なんだよ」 「えっ、僕には何の力もないのはご存知ですよね?」 「魔法が使えないのは勿論知っている。でも宿屋に必要なのは、魔法じゃないって君に教えられたんだ」 「僕にですか?」 恩人のクロードに、アンリが何を教えたと言うのだろうか? 「ああ、一号店で始めた空き室連絡や二号店の大浴場に冷たい飲み物、土産物店、どれも大繁盛じゃないか」 「これもクロードさんが、僕を雇ってくれたお陰です」 「その思いやりだよ。アンリ君は、常に人に喜ばれる事を考えている。まさに宿屋の申し子だな」 クロードに、そこまで言ってもらえるとは思ってもみなかった。 「他国で支店を作るならアンリ君に建築魔法と水魔法の出来る社員を雇ってもらって、宿屋を作るところから指導してもらう必要があるんだ」 「クロードさんの命令なら、従います」 「違うよ、命令だと思わないでくれ。私はこの一号店で満足なんだ。ただ、君には未知の可能性がある」 クロードの話しに、胸がドキドキするのを抑えられなかった。 まるで鳥が翼を広げて、初めて大空を飛ぶ切符を手に入れた気分だった。 「だから、全部、君が決めていいんだよ」 「はい」 クロードが挑戦してもいいと言うなら、アンリは挑戦してみたいと思った。 同じ宿屋とは言っても、他国では環境や習慣も違うだろう。 でも、違う習慣を持つ人々が二号店を利用して、支店の話しが持ち上がったのだ。 「挑戦してみたいです。僕はクロードさんがいなかったら、家も追い出されて孤児になっていたかもしれません」 「君のような子を追い出すなんて考えられないよ。これは別の話なんだが、私には子供がいない。君を養子に迎えたいんだが」 「僕をですか?」 「ああ、君が魔法が使えない事で肩身の狭い思いをしてると聞いて、ずっと考えていたんだよ。私が引退したら宿屋も全て君に任せたい」 「どうして僕にそんなにしてくれるんですか?本当の親にさえ追い出されたようなものなのに」 「実は、私も能力無しなんた。誰にも言ってないんだが」 初めて聞くクロードの秘密だった。 だから、いつも気にかけてくれたのだ。 「ありがとうございます。クロードさんの養子になれたら嬉しいです」 「よし、決まりだ。でも息子が出来て直ぐに、他国に支店を作りに行ってしまうなんて寂しいよ」 クロードはしょんぼりしてしまった。 「宿を建てて、ノウハウを教えたら、直ぐに帰ってきます」 「そうだな。今度、二号店に遊びに行くから大浴場に入れてくれるかい?」 「勿論です。背中を洗わせて下さい」 「息子に背中を流してもらえるのか」 クロードは涙を流しそうになって目頭を押さえた。 「クロードさんっ」 クロードの涙にアンリは慌ててしまった。 「これからはお父さんと呼んでくれ」 「お父さんっ」 今度はアンリが、大粒の涙を流して声を出して泣いてしまった。 これは何の能力も持たずに異世界に放り出された男が、ホテル王と呼ばれるようになる少し前の物語。
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