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中編
車を走らせ15分ほどで墓についた。
俺は駐車場に車を停めると、来がけに小型スーパーで買った花と線香を持って墓場に入って行った。
俺は辺りを見回す。桜が満開だった。
「日菜子とここに来た時と同じだな……。桜が綺麗だ」
俺は記憶を頼りに歩を進める。馬鹿でかい敷地を俺は歩いていく。5分ほど迷って、ようやく俺は日菜子の家の墓を見つけた。俺は花を生けて、線香に火をつけると墓の前に置いた。そしてひとしきり祈る。祈り終わり、俺は意を決して墓石の側面に書かれた文字を見ようと、体を墓石の正面から側面に移動しかけた。
その時、俺は声を掛けられた。
「何でこんなところにいるの?」
俺は墓石の名前を確認する前に、振り返って声の主を見た。
俺は心臓が止まるほど驚いた。
「日菜子……、生きてたのか?」
「生きているけど? なんでそんな事を聞くの?」
「淀川さんが、日向子は亡くなったと思うと言っていたから。それが本当か確かめに来た。もし本当に死んでいたら、日菜子の名前も墓石に刻んであるだろう?」
「確かにね。でももう確認する必要はないわね。だって、私生きているから」
確かに日菜子はそこにいた。
――良かった!
と俺は思う。
俺の声は弾む。
「じゃ墓石に名前はないのか」
俺は、チラリと墓石の側面に目をやる。日菜子が俺の視線を遮ぎって、体を差し込こみ、俺の顔を正面から見た。直ぐ側で俺を見つめる日菜子に、俺は体がカァと熱くなるのを感じた。
「家の墓に線香とお花をあげてくれたんだ。ありがとう」
「うん、供えたよ。ところで日菜子は、なんでここにいるの?」
「私は祖先の墓参りよ。私が自分ちの墓にいたら何か変なの?」
俺は視線を斜め上に泳がせながら言う。
「あぁ、たしかに」
「それより、大里くんはこれから暇ある?」
「ああ、特に用事はないよ」
「そうなんだぁ。だったらさぁ。海に行かない?」
「海ぃ……」
「昔、ここで約束したじゃない? 海辺のパンケーキ屋に行って、海辺を歩こうって」
「約束はしたけど。俺達、あの後すぐ別れただろう。もう付き合ってないんだ。約束は無効だよ」
俺は渋った。生きているのが分かったのだ。もう充分だと俺は思った。これ以上日菜子と一緒にいたら更に未練が募ってしまう。
「でも折角会えたし。ねぇ、行こうよ」
当時のままの笑顔で日菜子が俺に言った。
俺は笑顔に惑わされる。
「まだ別れた時のこと、気にしてるの?」
「少しは気にしてる」
――本当はたくさん気にしている。
「少しなら良いじゃない。行こう」
俺はうなづく。
――結局、俺は日菜子に逆らえない。
「そうだな。行こう」
俺達は並んで駐車場に歩き出した。
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