中編

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 直ぐに店員がやってきて、俺の前だけに水を置いた。  「ご注文を伺ってよろしいですか?」  「じゃ、このパンケーキと、後このパンケーキ。それとコーラとアイスコーヒーを1つ」  店員の目が泳ぐ。  「あの。パンケーキも、お飲み物も2個ずつで、よろしいんですか?」  俺は戸惑う。  「頼んでは駄目ですか?」  「失礼しました。申し訳ありません。かしこまりました」  「それと、水が1つしか来てないので。もう1つ持ってきていただけますか?」  「あ、はい。すぐお持ちします」  店員はそそくさと撤収していく。  俺は店員の後ろ姿を目で追う。  「あの店員は大丈夫かな? 何か感じが悪いよなぁ」  「悪く言わないであげて」  俺は日菜子が優しいなと思う。  「そうする」  「でも何で2つもパンケーキを頼んだの?」  「日菜子は金を持ってないから、パンケーキを頼めなかったんでしょう? だから奢るよ。日菜子は甘いものが好きだったよね? 日菜子に食べさせてあげたいんだ」    日菜子が遠慮したように言う。  「困るよ……」  たぶん日菜子は、奢られるのが悪いと思っているのだろう。  「良いだろ? 甘い物を美味しそうに食べる、日菜子を見るのが好きなんだ」  「そんなのを見るのが好きなの?」  日菜子は恥じらうように言った。  「そうだよ。ところでさ。ずっと気になっているんだ」  「何を気になっていたの?」  「何であの日、墓参りに行ったの? それで日菜子と最後に会ったのが、墓場になっちゃったから」    真面目な顔で日菜子が答えた。  「私もいずれあのお墓に入るんだと思って、見に行ったの」  「そんな不吉な事を考えていたの?」  そこにパンケーキが運ばれて来て、話は途中で終わってしまった。  美味しそうなパンケーキが2つ並んだ。俺はいただきますをし、ひとくち食べて言う。  「美味い(うま)」  甘いバニラの香りが鼻の奥に抜けていく。    でも日菜子はパンケーキも、コーラにも手をつけない。  日菜子が済まなそうに言った。  「ごめんね。本当に食べられないの」  俺は日菜子に食べさせるのを諦めて言う。  「いいよ。ここ出たら海に行こう」  「うん。……ごめんね。食べられなくて」  俺は日菜子を見つめて優しく言った。  「いいんだ。俺が勝手に頼んだのだから」  日菜子が嬉しげに笑った。  ――俺はこの笑顔に弱い。
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