家泣り

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ふと、君が部屋の柱に目を向ける。小学生の頃から鉛筆でつけた線。身長を測った跡だ。その柱に手をつけて今までの跡を見つめる君。クスッと笑いながら一番最初に測ったところを触る。 「ワタシってこんなだったんだ」 そうだったね。 そうしてから君は鉛筆を手に持つと柱に背をくっつけて、頭のてっぺん辺りの部分に線を引き、それを見た。 「大きくなったんだなぁ」 大きくなったんだよ。君は。 そうした後、今度はベッドに寝そべりながら天井を見る。そのまま何分かジッと見つめながら口を開く 「ねぇ、ワタシもう行っちゃうよ」 そうだね。 「もう少し長居したいけどさ、そうするといつまでも此処から出られなくなっちゃう気がしてね」 そっか。 「そう言えばさ、この前思い出したんだ。お母さんに家が生きてるって言われてからさ、ワタシ何回か君に話しかけてたよね」 そうだったね。 「結局一度も君とお話しできなかったね」 ごめんね。 そう言い終えると、君は出かける準備を始めた。途中、カズオとヨウコが車で送ると言って、君はそれに返事をした。 準備が終わると君は壁にもたれかかって話した。 「じゃあ、もう行くね。新しい家に」 うん 「寂しくなるねぇ」 うん、本当に寂しい。けど、私もここ何日かで分かったんだ。 寂しくなるのは思い出がある証拠なんだ。 家は人がいて、初めて家になれるんだ。 人のいない家は単なる建物に過ぎないんだ。 人が住んで、思い出が出来て、そうしてそこは家になるんだって。  君が行く新しい家はどんなところなのか知らないし、そこにどれくらい住むのかわからない。でも、そこで新しい思い出を作って、そこを建物じゃなくて、君の家にしてあげて。 そしてどうか忘れないで、 此処はいつまでも君の家だから。 私の声は聞こえてるわけがない、それなのに君は大きく頷いた。 「じゃあね、泣き虫なお家さん」 そうして笑顔で私から離れていった。 誰もいなくなった建物は何度も家鳴りが響いた。
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