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「達郎……」
と、俺は、彼の手を握った。
「うん?」
桜の中で、達郎が振り向く。
「ずっと、一緒にいてくれ。ずっと……。ずっと。死んでしまっても、あの世でも……」
まるでプロポーズのような言葉を、俺は告げる。
そういえば、ちゃんとプロポーズしたことはなかった、と今更に気づいた。
あの頃はバタバタしていて、今ようやく、旅行できるほど落ち着いたのだから。
達郎は、笑う。
その顔は、桜よりも美しくて。
「当たり前だ。俺の……。運命のひと」
達郎の手が、俺の手を、あたたかく握りしめる。
俺たちはきっと、間違っている。
正しくない。
人を傷つけた。
だから、贖罪を続けて生きていかなくてはいけない。
桜並木のようには、美しく生きられないかもしれない。
それでもーーいま、達郎が隣にいる。
そのことが、すべてのような気がした。
桜は、俺たちの上にも、あたたかく花びらを散らし続けていた。
死や老いや、罪を含めた生命の美しさを、たたえるかのように。
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