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「妹は自分に手を上げられるのは我慢出来たのだろうが、永清が傷付く姿を見て早く逃げないとと決心したんだろう」
「…その後、どうなったんですか…?」
「番は先代が殺した。嗚呼云う人間は死なないと治らないからな。…妹はその後精神的に参っていた事も有り、病気を患い亡くなったよ」
そんな過去が茜さんに有ったとは思わなかった。自ら誰かに教えれる様な内容では無いし、俺の様な人間には教える訳が無い。何せ俺の事を信じていないからだ。
両親が運命の番だったにも関わらず、父親は番以外の女と遊んだ挙句に番に手を上げ傷付ける姿を見て、番える事に魅力等感じないだろう。内心、自身の体質がαを寄せ付けないと知って安堵したに違いない。然し、俺と運命の番だと知って、また両親と同じ人生を歩むかもしれないと恐怖した筈だ。
「…俺、そんなに屑な男に見えますかね」
「いや、永清はそんな風に見ている訳じゃない。ただ信じるのが怖いだけさ」
「信じるのが、怖い…」
あの日、茜さんが言おうとしたのは”信じるのが怖い”と云う事だったのだろうか。
どうしたら俺の事を信じて貰えるだろう。親が勝手に決めた同居に婚約。別に番えなくとも良いと考えていたが、今はもう茜さんの傍を離れる事が出来ないのだ。それは運命の番だと知ったからなのかもしれないが、俺はもう茜さん以外に興味を唆られる事は無いと思う。
話しを終え、俺は離れへと戻った。その際、荷物が届いているのに気付き手に取りと、それはこないだ頼んだネックガードだと分かった。
茜さんに言われて注文したが、今の状態で受け取ってくれるか不安である。然しあのまま傷の付いたネックガードを着けさせているのも気が引ける。そう思い余り乗り気では無いが、茜さんの元へと向かった。
茜さんは縁側に座り本を読んでいた。傍には空になったグラスが置かれている。
「茜さん」
名を呼べばページを捲る手が止まった。こちらに視線を移す事は無く「何でしょう」と返事が返ってきた。
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