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 俺は恐る恐る隣に座ると、ネックガードが入った箱を差し出した。箱には専門店のロゴが入っていたので、茜さんはこれがネックガードだと理解しては要らないと言わんばかりに箱をこちらに押した。 「…いつまでもそのネックガードを着けている訳にもいかないでしょう。それに俺は護衛と婚約者として傍に居るんですから」 「…結局、君を追い出す事は出来ないのですね」  親父さんが自身の申し出を断った事に悲しげに目を細めると、着けていたネックガードのロックを解除した茜さんは箱を指差した。 「君が着けて下さい。ロック番号も君が決めて良いので」 「は?決めれる訳無いでしょ。俺が知ってたら、ネックガードの意味無いし」 「君は婚約者でしょう。私は抵抗しませんよ、君と番になる事に」  半ば諦めたかの様に言う茜さんに、俺は苛立ち持っていた箱を引っ込めた。  その行動に訳が分からないと不思議そうにしている茜さんに対して、俺は取ったネックガードを着け直した。 「俺がそんな男に見えますか。嫌がる相手の項を噛む様な男に」 「それは、」 「見えるからそう言ったんですよね。まぁ、このまま噛んで番にするのは簡単ですよ。だけど、そんなの俺は嫌なんで。ネックガードは新しいの買って来ます」  そう言いながら立ち上がると、何か言いたげな茜さんをその場に残し俺は自室へと向かった。  渡さなかったネックガードは箱の状態のまま、クローゼットの中へと仕舞い新しい物を買いに出掛けた。 「_怒らせてしまいましたか」  大きな溜息を吐きながら、着けられたネックガードに触れる私は先程の発言を後悔した。  別に蕪木君がそんな無理矢理番にさせる人間と思っている訳では無い。けれど、自分の申し出を断られた事に苛立ち八つ当たりをしてしまったのだ。小さな子供の様で情けない。  彼が私に好意を持っているのは分かる。けれど、それは恋愛感情では無いのは当然で番える気が有ってあのネックガードを買った訳では無い。ただ、私に言われたから買っただけなのだ。  あの日、重なってしまった唇。彼は眠っていたので知る由もないけれど、私は忘れられないでいる。  何故か嫌だと思えず、それも運命の番だからなのかと考えると番える事に対して嫌悪感を抱いてしまって仕方が無い。 「私が番えるなんて、無理な話なんですよ_」
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