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「もし大丈夫だったら、買い物をして帰りましょうか」
普通の人間だったのなら、蕪木君と番える事に抵抗を感じないのだろう。
蕪木君は本当に優しい。今だって、さりげなく車道側を歩いている。
私と出会ってから周囲にはαだと知られ、見る目が変わった事だろう。βやΩにとって、αとの交際は自身のステータスになる。だからこそ優しく気遣いが出来る蕪木君を狙う人間は少なからず居る筈だが、当の本人はそれに気付いている様子が無い。
蕪木君と番たいΩは居るだろう。
もしも、組長が私の申し出を受け護衛を辞めていたならば今頃別のΩと_。
(自分で蕪木君の好意を無下にしてる癖に_)
「…来週辺り初めての周期が来ます。今迄来なかった反動で長引き、強いフェロモンが出るとの事なので周期の時は自宅へ帰って下さい」
「それ、一人で大丈夫なんですか?」
「一人で耐えるのは辛いですが、仕方が有りません」
「…そうですか」
初めての周期で苦しいのは嫌だからと、蕪木君を利用する訳にはいかない。蕪木君が抱く好意は番えて死ぬまで共に生きる程の好意では無い筈だ。一時的に番えて解消するのも良いのかもしれないが、そう言って仕舞えば恐らく僅かな好意も消え去るだろう。
「周期の為に色々買って置かないとですね。周期中、もし何か有れば辛いでしょうが連絡して下さい」
「…はい」
君は何故、こんな私に優しくしてくれるのでしょうか。私だったら見捨てているだろう。蕪木君は本当にαらしくない人だ。私の様なΩには勿体無い程に。
「済みません」
「…何で謝るんですか?」
「私が、君の思いを信じないからです」
「そうですね。だけど、俺は無理強いする気も有りませんし、茜さんが本当に嫌なら婚約の話も無かった事にしますよ。ただ、俺はもう茜さん以外と番える気無いんで」
「__」
何故、そんなにハッキリと言い切れるのだろうか。
婚約の話が無くなっても、君は私だけを求めてくれるのかと胸が痛んで仕方が無い。
(私は本当に彼を信じて良いのだろうか_?)
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