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 4人で出掛ける当日。  当然、景介は渋々待ち合わせ場所に集合したのだが、終始俺の後ろや隣に隠れており鹿島さんと距離を縮める所では無かった。  当の鹿島さんは、悲しい等と言っているが余り焦っている様子も無い。余程仲良くなる自信が有るのか、それとも普通に何も感じてないだけか。兎に角、鹿島さんは何を考えているか分からない人だ。 「鹿島さん、本当に距離を縮めようと思ってます?」 「え、思ってるけど?」  遊園地の中を一通り巡った後、鹿島さんと共に飲み物等を買いに来ていた俺は落ち着かず本人に聞いてみた。  鹿島さんは、何故そんな事を聞くのか分からないという表情を浮かべている。 「オレはさぁ、昔から怖がられる事が多くて初めて会った時少しも怖がらなかったのは永清位だったなぁ」  当時の事を思い出したのか、可笑しそうに笑う鹿島さん。2人は随分と昔からの付き合いらしく兄弟の様に育ったと聞いたが、何故2人は恋人に発展しなかったのかと疑問に思う。  そりゃあ、2人が恋人になっていたら俺はこうして茜さんに出会う事は無かったので困るが。  店員から商品を受け取り2人の元へ戻っていると、見知らぬ男達が2人と何か話しているのが見えた。  景介は永清さんの後ろに隠れて怯えており、男の1人は永清さんの手を掴んでいるのに気付き慌てて駆け寄った。 「連れに何か用ですか」 「チッ。何だよ、連れ居んのか_、」  永清さんの手を掴んでいた男は、此方を振り返ると俺と鹿島さんを見て威勢の良さは消え去り、怯えながら逃げて行ってしまった。  そんな怖い顔してたか、と首を傾げながら鹿島さんを見るといつもニコニコしている顔は氷の様に冷たい表情をしていた。 「助けてくれたのは嬉しいですが、威嚇フェロモン出てますよ。成瀬君が怯えてしまいます」 「おぉ、無意識に出てたわ〜。ごめんごめん」  αの威嚇フェロモンは、強い威圧感を持ち他者を屈服させる力を持っている。番を守る為に放出される事が多いが、2人が絡まれていて怯えている様子を見て無意識に放出されていたのだろう。 「大丈夫でしたか?」 「大丈夫ですよ。成瀬君が怯えているので、落ち着くまで休みましょうか」 「そうですね」  人見知りでビビリの景介にとって見知らぬ相手に声を掛けられた上、鹿島さんの威嚇フェロモンに恐怖心を抱いたのだろう。  鹿島さんは、永清さんの後ろに隠れる景介の横に立つと、少し屈んでは優しい笑顔を浮かべては手を取った。 「ごめんなぁ、怖がらせて。やっぱり、オレが居たら楽しめないかな?」 「…別に、鹿島先輩の所為じゃないので…」  少しは景介も鹿島さんに慣れてきたのか、しどろもどろだが会話をする様になった。未だ距離は有るが、威嚇をしたり逃げない様子を見て少し安心した。
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