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鹿島さんの厚意も有り、俺と永清さんの2人で観覧車に乗る事にした。密室に2人っきりと云うのは中々緊張するが、永清さんは気にしていない様子で窓の外を眺めている。
それにしても、俺が選んだネックガードをしているのを見ると何だか自分の番の様で謎の優越感が湧く。あの日の事を思い出すと、項を噛みたい欲求が増して仕方が無い。
熱の含んだ視線に気付いたのか、永清さんは困った様に首に手を当てながら微笑んだ。
「そんなに見詰められたら照れてしまいますよ」
「…済みません」
「…君の視線はまるで獲物を狙う獣の様ですね」
「け、獣っすか…!?」
「ええ。…そんなに噛みたいんですか?」
欲情していると思われてしまったら、俺の株はだだ下がりである。必死に誤魔化そうとする俺を見て、クスクスと楽しそうに笑っている永清さん。俺は恥ずかしくなり小さく縮こまった。
「正直、次の周期まで待って下さいと言いましたが、もう良いのかなと思ってます」
「それって…」
「私は他のΩの様に可愛らしさは有りませんし、身体には傷跡が残ってます。それに、これから先危険な事も有るでしょう。それでも私が番で良いのですか?」
緊張しているのか震える手で俺の手を取った永清さんを見て、俺はその手を強く握り返した。
親父さんから聞いた過去を考えると、永清さんの不安は計り知れない。運命の番だからと言ってもいつ裏切られるか分からない。その上、暴力を振るわれて蔑ろにされるので無いかと不安で仕方が無いだろう。逆の立場だったら、俺だってそうなる。
「勿論です」
「…物好きですね、君も」
「それはお互い様ですよ」
「君はとても素敵な方ですよ、私には勿体無い位に」
「え」
立ち上がった永清さんは、俺の頬を両手で挟むと唇を重ねては微笑み掛けこう言った。
「ロックは君の誕生日で解けますよ」
「え…、え!?」
丁度良く下に到着し、ご機嫌な様子で先に降りた永清さん。俺は衝撃的な言葉に固まったがギリギリ我に返り、慌てて観覧車から降りた。
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